引用元:おーぷん2ちゃんねる百物語2015 本スレ

44: 代理投稿立候補◆YtFiiqjbeo 2015/02/14(土)20:33:02 ID:Vve
その女性が店内に入って来たのは、私がちょうど応援でレジに入って居た時だった
「いらっしゃいませー」
レジに並んだお客さんの商品をポスレジで読み取りながら
声を掛けながらふと顔を上げた瞬間、
何故か私は手を止め、ぼんやりと彼女を目で追ってしまった

年齢は30代くらいだろうか。
明るめの茶髪に動きやすそうな服装。
肩から淡いピンクのショルダーバッグを提げている
「あ、あの……?」
「あっ、す、すみません」
レジに並んだお客さんから声を掛けられ、慌てて我に返る

急いでレジを通しながら、心は
「何であんなに気になったんだろう」という気持ちでいっぱいだった
気になったというより「惹かれる」感じか。
訳もなくつい目で追ってしまう、あの感じ
しばらくしてお客さんが途切れたので、レジから離れて商品棚の整頓に向かうと、
さっきの女性が買い物カゴを手に店内を回っていた
見れば見るほど「何故気になるのか解らない」。
にも関わらず、気付けば視線はそちらを向いてしまう
彼女はこちらの様子に気付くことなく、棚を移動していった

(うーん……)
「……どうかした?」
首を傾げる私に、店長が声を掛けてくる
他の店員たちも私の様子が気になっていたようで、「万引きとか?」と聞いてくる
「万引きではないんだけど……」
聞かれたところで、自分自身でもよく解っていないのだから、答えられるわけがない

その女性は一通り店内を回ってレジへ向かい、精算する
そして女性が店外へ出ようとした瞬間、けたたましく警報器が鳴り始めた。
未精算の商品が通過すると鳴るアラームだ
女性は一瞬顔を引きつらせたが、次の瞬間には身を翻して駆け出していた

45: 代理投稿立候補◆YtFiiqjbeo 2015/02/14(土)20:34:31 ID:Vve
「すみません、お待ちくださいお客様!」
店員に腕を掴まれた女性は、顔を真っ赤にして声を張り上げる
「私は盗ってない!」
「それを確認致しますので奥に……」
押し問答の末、女性は渋々奥へ向かった
……器械の誤検知の場合、お客さんは戸惑ったり、きょとんとされていることが多い
逃げようとしたということは「そういうことなのかな」と誰しも思っていたのだが……

レジ袋の中の商品に、未精算のものは見当たらない。
ショルダーバッグの中にも未精算の商品は無かった
どうやら「盗っていない」というのは本当だったようだ。
……が、ショルダーバッグから女性のものとは違う
免許証や保険証が入った財布が出て来て、別の意味で問題になった

結局彼女は警察に引き渡されて一件落着したのだが、後日談が一つある

財布から、女性のものとは違う身分証が出てきた時、何気なくそれを見た私は、
(I原……これ、小学校の時に転校していったI原ちゃんと同じ名前だなあ……)
一番仲良しで、転校で離れ離れになることが我慢できずに
「秘密基地に住んで二人暮らししてやる!」とプチ家出をし、
大騒ぎになった友達だが、時が経つに連れて疎遠になった

免許証の写真を見ても、昔の面影があるような無いようなといった感じで、
勿論同姓同名の別人だろうと思っていたら
後日、財布を見つけてくれたお礼を述べに、
と現れた彼女は、やっぱり幼なじみのI原だった

未だにあの女性が気になったことや、警報器が誤検知で鳴った理由は不明だが、
あれはきっとI原の財布が発したSOSだったんじゃないかと思っている


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