引用元:おーぷん2ちゃんねる百物語2015 本スレ

90: 宵待草@代理投稿◆zGmkUMDv/mqt 2015/02/14(土)23:05:57 ID:nGv
春。学年が3年に上がった時、同じクラスになった同級生の中に、
1年の時も同じクラスだったエリちゃん(仮名)が居た
といっても自分は最初、それが『エリちゃん』だとは気が付かなかったのだけれど
1年の時のエリちゃんは、黒髪を二つに束ね、
泣きぼくろが印象的な眼鏡を掛けた大人しい女の子で
人見知りが激しいのか、話しかけるとドギマギする小動物系の子だった
2年はクラスが別だったからよく知らない

3年になったエリちゃんは、髪は緩くウェーブのかかった濃いめのブラウンになり、
眼鏡はコンタクトに代わり、化粧もバッチリの社交的で明るい女の子に変わっていた
実を言えば1年の時、どこのグループにも属さない余り者同士、
ペアを組む際には必ずお世話になっていたので、
同じクラスと知って密かに「やった!」と思っていたのだけど

……エリちゃんは、2年の時に同じクラスだったという
カナミさん(仮名)たちのグループと親しくなっているらしかった
それにしても、雰囲気が一変したからかな?
エリちゃんを見てると、何か違和感がある
毎回、本当に微かな違和感で、言葉には表現できないのだけれど、
その違和感は砂のように自分の中に積もっていった

エリちゃんとペアを組むことになったのは、文化祭の時だ
各クラスから2名ずつ、文化祭の実行委員を選出するのだけど、
立候補したエリちゃんが、何故か自分を指名してきたのだ

「1年の時は、よくこうして二人でお弁当食べたよね」
打ち合わせをしながら、エリちゃんがお弁当を取り出す
「そうだね」
自分も購買で買ったパンを取り出しながら、
拭えない違和感を抱いたままエリちゃんを見る
見た目も性格も変わったけれど、右目のところの泣きぼくろは変わらない。
ちょっと照れ臭そうに笑う仕草も、昔のままだ

91: 宵待草@代理投稿◆zGmkUMDv/mqt 2015/02/14(土)23:06:49 ID:nGv
自分でも、何に違和感を覚えているのか解らない
でも、「何かが違う。何かが可笑しい」と確信に近い思いを抱いている
「エリ、ジュース買ってきたよ」
カナミさんが、エリさんにジュースを手渡す

……可笑しいと言えば、カナミさんも様子が可笑しい
3年になるまで同じクラスになったことは無かったが、
それでも、同じ学校なのだから、見かけたことはある
もっと派手派手しく、気が強そうな瑞々しい雰囲気だった彼女が、
エリちゃんに畏縮してる……?

「ありがとう」
エリちゃんがジュースを受け取ると、
カナミさんは妙な笑いを浮かべて「じゃ、じゃあ……」とそそくさと去っていった
エリちゃんがお弁当を開け、箸を右手で持つ
その瞬間、違和感の正体を理解した

「エリちゃん……右利きだったっけ……?」
そうだ。確かにエリちゃんは左利きだった。
「左利きって天才が多いらしいよ」……そんな会話をしたはずだ
そうだ。そういえば、エリちゃんの泣きぼくろは左目の方にあったはずだ。
「利き手の側なんだね」というやり取りを思い出す

口の中が急速に乾上がるのを感じた
目の前で、こちらの様子など意に介さず、エリちゃんがお弁当を食べている
「……あ……なた、誰……?」
漸くそれだけ言葉を絞り出すと、『エリちゃん』はニヤリと笑った
……それは、かつてのエリちゃんの頃には見なかった笑みだ
「……私は、『なりたい自分』になっただけよ。『自分じゃない、自分』に」
その声は、エリちゃんとは似ても似付かなかった

後で知ったことだが、2年の時、
エリちゃんはカナミさんたちのグループに、いじめられていたのだそうだ
その後、何があったのかは知らない
ただハッキリしていることが一つだけある

1年の時、一緒にお弁当を食べたエリちゃんは、もういない


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