引用元:おーぷん2ちゃんねる百物語2015 本スレ

151: 宵待草@代理投稿◆zGmkUMDv/mqt 2015/02/20(金)17:46:20 ID:qVe
視界の隅をサッと黒い影が横切った気がして顔を上げる
……何の変哲も無い、いつも通りの大学の食堂の風景
向かいでカレーを食べていた友人が、私の様子に気付いて不思議そうに首を傾げる
「どうかした?」
「ううん、別に……」
気のせいか。そう思って私は手元の親子丼に視線を戻した

廊下で友人と話していると、視界の隅を黒い影が走る。
正門からふと見上げると、窓のところを何かが通り過ぎる
そんなことが何度かあるうち、私は黒い影が通る時、
必ずある男性がその近くに居ることに気が付いた
学年は1コ下らしい。
細身だが、背がかなり高く、眼鏡をかけている。
交友関係はかなり広いようだ。
所属はテニスサークル
……気になるとつい目で追ってしまったせいで、かなり彼に詳しくなってしまった。
これじゃまるでストーカーだ

そうこうしているうちに、夏休みに入った
私は里帰りしたこともあって、彼のことなどすっかり忘れていたのだが
夏休み明けに見掛けた彼は、以前とは全く違っていた
……何と表現したらいいのだろう。
彼の周囲がぼやけて見える。
というより、『ブレて』見える
二重にズレた印刷を見ているような感じで、
じっと見ていると酔ったように気分が悪くなる
自分の目がどうかしたんじゃないかと思ったけれど、
そんな現象は彼と彼の周囲にしか起きていない

気にはなるけれど、まさか聞くわけにもいかない。
そもそも私は彼と親しい訳でもないのだし
……でも気になる
そんな葛藤を続けていたある日、
前日に徹夜していて眠かった私は、一日中机に突っ伏して眠っていた
眠っていたといっても半覚醒のような状態で、
人のざわめきなどを聞くともなしに聞いていた
そんな中、一つの足音が近づいてくる

152: 宵待草@代理投稿◆zGmkUMDv/mqt 2015/02/20(金)17:47:59 ID:qVe
ああ、この机の横を通ってるんだな
ぼんやりとそう思った次の瞬間、

「……よく分かったな」

ぼそりと囁くような低い声が聞こえて、ガバッと飛び起きた
その勢いに、隣を歩いていた『彼』が驚く
今のは彼の声によく似ていた……?
彼は私の様子に、不思議そうに首を傾げながら、通り過ぎて行った


数年後、彼が逮捕されたニュースを見た
そこには、『爽やか』で『人当たりもよく』、
『朗らか』だった彼とは似ても似つかない罪状が並んでいた
彼を知る人たちは、口を揃えてこう言った
「彼は突然、『まるでとり憑かれたように』人が変わった」、と
だが、私は思うのだ
あれは、『とり憑かれた』のではなく、もしかしたら……


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